『平家物語』にまつわる、大村しげの記述

地下鉄の駅に、『平家物語』のアニメーションの大きな広告が掲げられていました。

大村しげさんの随筆のあちこちに、『平家物語』にまつわる話が書かれているので、ついつい目が留まったわけです。

放送は来年1月から。ただし、FOB(フジテレビのネット配信)にて先行配信されていて、第1話だけ無料配信中というので、鑑賞することに。

大村さんの本を読んだり、足跡を訪ねたりしていたおかげで、アニメーションを見ていて、普通なら見過ごすような点に気づくことができました。
せっかくなので、今回は大村しげさんが書き残した『平家物語』のポイントを紹介しましょう。

第1話にて食事の場面があります。
こちらに登場したのが、お膳の中央に大きくご飯を盛り、その周りにおかずを配した料理。
大村さんは、「おばんざい おぞよ おまわり どれもおかずのこと」と一文を残しています。

直筆による一文。

彼女は、おまわりが宮中の習慣であり、ご飯の周りにおかずが並んでいることから、「おまわり」という言葉が町衆にも伝わったことを何度も、紹介しました。

 

 

 

 

 

聞くところによると、宮中の女房方は、うつわのまん中にご飯を盛り、まわりにおかずをとって、召し上がるのやそうな。(中略)いつか、おまわりということばは、下々にも伝わって、町家でも使われるようになった。(『ハートランド バリ島 村ぐらし』淡交社より)

劇中、食事をしていたのは男女ではあるものの、男性の方が多い様子。
また、ご飯、おかずがそれぞれ、お膳の上で個別の器に盛られているので、大村さんの記述とは少し違います。
が、いずれにしても、ご飯が中心で、周囲におかずを配した点は変わりなく、アニメーションは、歴史の専門家のアドバイスを仰いで、丁寧に時代考証がなされているのでしょう。

次に、琵琶法師の娘があまりに不潔なため入浴させられるシーンにも注目です。
劇中、お湯につかる描写はありません。湯気のうっすらと立ちこめる室内で、身体を絞った布で拭かれる表現がなされていました。
大村さんの記述を手に、妙心寺を拝観した際、同様の浴室を見学しました。
そこで、目にしたのが明智光秀の菩提を追善するために建立された浴室です。

妙心寺の浴室。

これがお湯につかるお風呂ではなく、いまでいうサウナでした。
なるほど、描かれていたのは、これと同様の入浴かと気付けたのです。

このほか、アニメーションでの描写の有無はさておき、『平家物語』について、大村さんは以下を書き残しています。

建礼門院徳子が長楽寺でおぐし(髪)をおろした話
平家が源氏に壇ノ浦まで追い詰められ、建礼門院徳子平清盛の娘)は入水するも生き残り、京都へ連れていかれ、長楽寺(京都市東山区)でおぐしをおろします(仏門に入る)。『ほっこり京ぐらし』(淡交社)では、長楽寺門前の甘味処・紅葉庵の紹介のなかで、そのくだりが語られていました。

アニメの第1話では、建礼門院が入水する未来が、予知として一瞬描写されます。

長楽寺にある建礼門院御塔。

 

建礼門院徳子と、しば漬けのかかわり
おぐしをおろした建礼門院は、のちに大原の地に閑居します。そして、現在、大原の名物となっている、しば漬けと建礼門院にはかかわりがあるのです。

里人がなす、しそ、みょうがなどの塩漬けを奉ったところ、建礼門院さまは「柴葉漬けか」と仰せられたという。(『とっておきの京都』主婦と生活社より)

これが「しば漬け」の呼び名の始まり。大村さんは、この逸話を、上記以外にも、なんどか紹介しています。

建礼門院徳子を祀る大原西陵。
建礼門院が余生を過ごした寂光院。本堂は放火により焼失し、現在の本堂は再現されたものです。

那須与一のお墓の話
『平家物語』のなかでも特に有名なのが、屋島の戦いの那須与一が扇の的を射るくだりです。
その那須与一のお墓が、即成院(京都市東山区)にあり、大村さんは『静かな京』(講談社)のなかで、阿弥陀さんと那須与一の信仰について、紹介しています。

以上、駆け足ではございましたが、『平家物語』にまつわる大村さんの記述のあれこれを紹介しました。

アニメーションは、非常に丁寧に時代考証がなされているので、今後も、新たな発見があるかもしれません。
引き続き、2話以降を見てみます。(2話以降はFOB有料配信、2022年1月から地上波放送開始)

みなさまもご興味があれば、ぜひ『平家物語』をチェックしてみてください。