氷ご飯ときぬごし

春先からの新型コロナ騒動で、京都に帰省するわけにもいかなくなり、まもなく夏が終わります。夏が終わるまでに、大村さんが書き残した夏の、おばんざいを少し作っておきたくなりました。

今回は『京暮し』(暮しの手帖社)から”氷ご飯”、『おばんざい 春と夏』(河出文庫)から”きぬごし”の二本立てです。

氷ご飯は、大村さんが山寺の和尚さんにごちそうになったものです。

真夏の、暑い暑い日に、山寺でごちそうになったお茶づけの味が忘れられず、わたしもときどきやってみる。お茶づけというよりは、水づけというたほうが当たっていて、それを、わたしは氷ご飯というている(『京暮し』より)

これは炊きたてのご飯に冷たい井戸水をかけて粘り気をとって、あっさりさせたものです。お茶碗によそったら、お茶づけの要領で冷たい水をかけて食べます。記述では、山寺で花落ちの(とれたての)小さいきゅうりに塩をつけて一緒に食べた様子が紹介されています。

次にきぬごしは、調理というよりも、きぬごし豆腐の食べ方指南といったところです。

京の夏の蒸し暑さは格別で、暑さが高じてくると、ものをかむのも邪魔くさい。そんなとき、ちべとう、ちべとう冷やしたきぬごしは、つるつると気持ちようのどをとおる。それが、湯上りならば、なおのこと。ささやかなしあわせである(『おばんざい 春と夏』より)

こちらは柚子のおろしたものや絞った土しょうが、さらしねぎ、七味がよく合うとも書かれているほか、つけだしを作って、ご飯代わりに食べることもあると紹介。

つけだしは、おこぶとかつおのだしにみりんをちょっとと、薄口、濃口のおしたじで、好みの味に仕上げる(おばんざい 春と夏』より)

まずは氷ごはんから。もう水道の水もぬるいもので、ご飯を洗う氷水にとスーパーで氷を買ってきました。それをしばらく放置して適度に溶かし、ポットへ。時間に余裕のある方は、氷を買わずとも冷蔵庫で水を冷やしておいてください。

大村さんは、炊いたご飯をいかきに移して、その上に氷を乗せて水をかけていました。

最初に炊飯器をパカっと開けたものの、「そや、羽釜があった」と思い出しました。せっかくの氷ご飯です。久しぶりに羽釜で炊きまひょ。

 

上手に炊けたら、本のとおり、いかきに移して、氷水でシャバシャバと洗います。

 

 

できたら、それを、茶わんに移して、と。

 

どぼづけについて
氷ご飯の随筆では、(自宅だと)きゅうりとおなすのどぼづけを一緒に食べていた様子が書かれていましたが、私は身近にあった、しば漬けで食べました。大村さんは『おばんざい 春と夏』『京暮し』の両著で、”どぼづけ”を題材に選んで随筆を残しています。『おばんざい 春と夏』には、「字引きには、どぶづけとなっている」との記述あり。

続いて、きぬごし。青い柚子を先日買ったのがあったので、ちょうどよかった。皮をおろして、おろし金からつまようじで拾って豆腐の上へ。余った柚子もちょちょいと絞ります。七味はパッパと振りかけるだけですから、いとも簡単。薬味のしょうがやら、さらしねぎは次の機会に。つけだしが面倒くさければ、めんつゆで代用してください。

そんなこんなで、できました。氷ご飯定食といったところでしょうか(笑)。

シンプルすぎるので、美味しいという表現が適しているのかどうか。でも、とても心地よい風味で気に入りました。氷ご飯は味というよりも、食感を楽しむもので、きぬごしは、ゆずや七味が引き立って美味しい。また、氷ごはんは水をかけない状態でもスイスイ食べられてなんとも心地がいいです。夏が終わるまでに、みなさんもぜひお試しください。

今回の京ことば

おしたじ:醤油

いかき:ざる